ある秋晴れの朝。森はずれのおうちから、エティさんはかごを持って出発します。
今日は、マリーさんのお店にリボンを届ける日。かごの中にはいろとりどりのリボン
が入っています。
町の中心からちょっと離れた通り沿いに、マリーさんのお店があります。
白い石積み、オーク材の扉。そして、ショーウィンドウにはテディベア。
ちょうど秋の季節に合わせて、ピクニックの光景です。
ドアをあけると、こじんまりした店内の奥の棚からたくさんのテディベアが
迎えてくれます。そして、手前のカウンタでは、マリーさんが縫い物をしながら
お店番。
「こんにちは、マリーさん。リボン、届けにきましたー。」
「あ、ありがとう、エティ。助かるわ。」
にっこり笑って、マリーさんはリボンを受け取ります。
「今回もいろいろな色を揃えてみたんだけど。」
「いつもありがとう、今日のもとってもきれいね。」
ピンク、黄色、緑、青、赤…… みんなエティさんが心をこめて染めたものです。
「今回は、水色には夏の青をたっぷりすいこんだ星露草のすがすがしい気持ち、
黄色は、ひざしをたっぷり吸い込んだ日光草の元気が出る気持ち、……」
「いつものとっておきの魔法もかけてくれた?」
「もちろん。『ほんわかあったかい気持ちになれる』魔法も全部のリボンに
かけたよ。」
エティさんはウィンクします。
「そうそう、昨日ね、とってもかわいいお客様がきたの。」
リボンを箱にうつしながらマリーさんが話しはじめます。
「そうなの?」
「男の子のお客様だったんだけどね……」
−昨日も気持ちのいい秋の日。ちょうど午後になって一段落したところで、 ドアの外にうろうろしている男の子を見つけたの。何度も中をうかがっては いったりきたり。一度、ドアノブに手をのばしても引っ込めて、またショー ウィンドウをのぞいたり。
30分ぐらい迷ってたかな、意を決したように、勢いよくドアを開けたの。
そして、開口一番。
「すいません、一番かわいいくまっ、ください!!」
もう顔を真っ赤にして、でもすっごく真剣な顔で。私の方がおされちゃいそう。
「どうぞ、ゆっくりみて、選んでくださいな。」
ようやくそう声をかけても、彼はちらっと棚を見ただけで落ち着かない様子。
「あ、あのー。」
「はい?」
「あの、オレ、こういうのわからないんで、一緒に選んでもらえますか?」
一緒に並んで棚のくまをみながら、お話を聞いたわ。どんなくまがいいのか
を聞こうと思って。
「実は…… この前に彼女と一緒にいたときに、彼女がこのお店の前で立ち止まって
ショーウィンドウをすごくうれしそうに見てたんです。それで……彼女にプレゼント
したくて来たんです」
「ずいぶん、ドアの前で迷ってましたね。」
くすっと笑って聞くと、また顔を真っ赤にして。
「見てたんですか。いや、オレ、こういうとこ入ったことないし、一人だと
女の子しか入らないところっぽくて入りにくくて……」
「でも、そんなに敷居が高かったのに来てくれたわけね。彼女のために。」
にこにこしてるとますます赤くなっちゃって。
いくつか手にとってみて。首をひねる彼。
「くまってみんな同じだと思ってたけど、1つ1つ違うんですね。」
「そうよ、みんな私の手作りだもの。どの子もみんな思い入れがあるのよ。
あなたとあなたの彼女にぴったりの子が見つかるといいけど。」
「うーん……」
2つずつ手にとっては見比べたり、近くでみたり遠くて見たり。とっても
真剣。
「お誕生日か何かなの?」
ちょっと黙り込む彼。たちいったこと聞いちゃったかなと反省してたら。
「いえ、記念日なんです。オレたちの。ちょうど今から1年前につきあいはじめ
たので……何か記念に残るものを贈りたいなって思って。」
そこまでいうと照れたのか、また黙りこんでしまった。
「これにします。」
1時間ぐらい悩んで。彼が手にとったのは、はちみつ色のベア。ちょっと丸顔の
ぽわんとしたかわいい子。
「……なんとなく似てるから。」
ぽそっといって私にさしだすの。
「それじゃ、こっちに来て、リボンを選んでね。」
「え。何のリボンですか。」
カウンタに向かいながら彼がきいてきた。
「あ、テディベアはね、リボンを結んだ日がバースディなの。ほら、棚のベアは
リボンをしてないでしょ。これは誰かに選んでもらった日にほんとにこの子たちの
一生がスタートするからなの。」
「そうなんですか……」
「これにします。」
選んだのは、淡いピンク。遅咲きのワイルドローズで染めたその色のもつ意味は
『大好きだよ』
そうそう、この素直な気持ち、ずっと忘れないでいてね、と心の中で思いながら
リボンを結びます。
「これで、この子のバースディは今日になったわ。これから君たちの記念日が来る
ごとに1つずつ、年をとっていくのね。」
カードにバースディを書き入れて、彼にメッセージをかいてもらい、
ベアに持たせて包装したわ。彼、うけとりながら、うれしさ半分、不安半分
という表情。
「これから、彼女に渡しにいくんです。……喜んでもらえるといいんだけど。」
そうそう、プレゼント渡すときは、とってもどきどきするよね。
私はウィンクしながら答えたわ。
「大丈夫、さっきのリボンだけど、森はずれの魔法使いが想いを込めて染めてくれた
ものなの。『ほんわかあったかな気持ちになれる魔法』つきよ。」
「……そして、彼は、にこっと笑ってお店を後にしたわ。」
「彼女、どういう反応したかしらね。」
エティさんもほほえましくききながら、想像しました。
「それはもう、きっと満面の笑みよ。」
マリーさんが自身たっぷりに答えます。
「私のベアと、あなたのリボン、そして、ほんのちょっと魔法と、何より、彼の
気持ち。『にっこり』にならないはずないわ。」
そんなマリーさんをみながらエティさんも一緒にほんわかあったかな気持ちになって
いました。そう、きっと彼は大丈夫。ドアをあけて、包みをあけた彼女の気持ちが、
エティさんやマリーさんにも伝わってきたんだから。
町の角の白い石積みの小さなテディベア屋さん。お店の奥の棚では、今日も たくさんのベアたちが、誕生日を待って並んでいます。想いを込めたリボンを 結び、誰かの笑顔を見るために。
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